「マモルは『ピーターパン』を読んだことがあるかな」
 ウッとつまって、つぎの瞬間笑いだしたぼくに、守山さんはとがめるような目をむけた。
「そうばかにしたものではない。あれは、けっこう真相をついているのだ」
(中略)
「あの中にこんな一節がある。『妖精が少なくなったのは、子どもたちが妖精を信じなくなったからだ。そんなものはいないさと、世界のどこかでだれかがいうたびに、妖精がひとり死ぬんだ』……真実にかぎりなく近い虚構だよ。『不信』という負の意思力が、われわれのような存在にあたえる致命的な影響を、ほとんど正確にいいあてている」
(ハードカバーP82より)

◎あらすじ

先祖代々稲荷神社の巫女をつとめるマモルの家に美青年の守山という下宿人がやってくる。
腰までとどく長髪に、和服の着流し、そしてアブラゲが大好きな美青年・守山さんのふしぎな魅力にマモルはしだいにひかれていく。そしてマモルは、レジャーランド開発のために破壊されようとしている山と古墳を守るために守山さんと共に立ち上がる。
海に山に森に、太古から宿り、人間たちを見守ってきた“存在”との運命的な出会い、そして明らかになった守山さんのおどろくべき正体とは?自然を守ることのたいせつさを熱く切なく問いかける秀作ファンタジー。
熊日文学賞/第32回講談社児童文学新人賞

◎感想メモ

ぼくの・稲荷山戦記 大好きな児童書のうちの一冊。思い出の本。たつみや章さんとの記念すべき出会いのね。
何がたまらなかったって、神さまからのお使いのきつねさんがある日突然自分ちに居候することになって、
しかもそのおきつねさんが美青年で、知性もあり、でもやっぱりお稲荷さんだから人間と感覚が違って、それから仕えてる神さまのことが大大大好きで…。
ああ、もうこの素敵設定にやられたみたいなもんだ。

メッセージ性が豊かなところも魅力かな。
自然の大切さ、それを壊そうとする大人の愚かさ。児童書だから、子どもが読むものだから、ストレートに、ほんとうにすんなりと、「大人ってば夢がない!レジャーランドなんて、自然の尊さに比べればなんぼのもんか!」と思わせてくれる。多少大人になった今でさえ、読み返せばバカな大人たちにいらついてしまう(笑)

それから、あまりにもミコトさまがお美しくてお優しくて素敵な素敵な神さまだから、マモルと同じように読んでいるだけでたちまちぞっこんラブになれるのも良い(笑)
土地を見守り愛してくれる、”存在”がいてくれることのなんと素晴らしいことだろうと、子ども心に猛烈な憧れを持ったなぁ。だから古墳の全貌が明らかになるときに泣いてしまったし、守山さんたちキツネが見せてくれた優しい幻にもやっぱり涙だった…。地味に泣かせるんすよ。ほんと憎いなぁ、もう!

自然に対する尊敬と、”神さま”を信じたくなる気持ち、そういう豊かな感情が、本を通して子どもに宿せるのはとても大事だと思うし、この本はその点でとても良いと思う。
この本の登場人物を、自分のハンドルネームにしてしまう(その名前自体が気に入ったのもあるけど)くらいには、今のわたしにも影響を与えてます。大好き。

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この本が面白いと思ったら、こっちもきっと面白い(はず)です!
夜の神話(たつみや章)、水の伝説(たつみや章)、陰陽屋へようこそ(天野頌子)

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◎名場面集

「たしかに、『そのまま』ではありませんな。しかし、自然と人間との折りあい方としてはほとんど理想的でしょう。こんどのサンシャインパークも……」
「折りあった!」
 ビクンッと、ぼくがとびあがってしまったほどの、するどいさけび声だった。
 中腰でテーブルに手をついた守山さんは、部長をにらみつけていた。
 火を吹きそうな目の色。
「折りあったですと?開発工事のために根こそぎにされた何万という木たちは、みずから望んで切られたというのですか!すみかを追われた鳥や獣たちが、新しい巣をつくる場所を得るまでにどれほどの辛酸をなめたか!それに対して、あなたがたが、なにをあがなったというのですか。いったい、だれを相手に折りあったというのです!」(P146、147より)

守山さんの、押し隠してて、でも堪えきれないって感じの怒りや痛みがひしひし伝わってきて、こちらまで凹んじゃいそうなエネルギー。人はすぐに何かを壊して何かを作るけど、そこにあったもののことは何も考えてなくて、でもそこには沢山の命があったんだってことを、気付かせてくれる、はっとしてしまう。同じ壊すにしても、知ってると知らないとじゃ全然違うと思うから。子どもに読んでもらいたいなって思うのは、こういうところ。あるはずの痛みを、知って欲しいと思う。

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◎人物紹介


守山初彦(もりやまはつひこ)
お稲荷さまに仕えるお使いの神狐。人間に化けてマモルの家に下宿していたときの名前が守山初彦で、本来の名前は初音(はつね)。下駄に和服を着ていて、古風な雛人形風の目鼻立ちで、長髪。時代劇みたいな言葉遣いをする。M大学院生で、専攻は考古学で専門は古墳、という設定。ちなみに守山初彦というM大学生は実在しているが、どこぞの外国に行っているそうな。真の名を呼ばれると狐の姿に戻ってしまう。狐のときの毛色は白銀色。お主さまラブで、他の神狐たちのリーダー。


森田守(もりたまもる)
海辺の茶店兼タバコ屋の息子。中一で今は祖母と二人暮し。父親はマグロ漁船の船長で年に一度くらいしか帰ってこず、母は小ニのときに他界した。家の裏にある稲荷神社を守ってきた巫女を家柄で、人でない存在を見聞きし交感できる力である『才』を持つ。そのために守山さんによって神さまと引き合わされ、共に稲荷山開発を阻止するために戦うことになる。


瑞穂秀穂佐戸見和気尊(ミズホヒデホノサトミワケノミコト)
お稲荷さま、またはお主さま、ミコトさまと呼ばれる土地神。この土地やそこにいる人々を愛する穏やかな神だが、自然の息吹が固まって生まれた存在ゆえ、自然が無くなりつつある現在は力が衰えてしまっている。初音たちはそれでもなお稲荷山にとどまろうとするお主さまのために稲荷山の保護に奮闘している。とにかく穏やかで優しい優しい神さま。自分のことをミーくんと呼んでも構わないと言うなど、お茶目な一面も。人間として転生していた時期もあった。(そのときの名は初瀬王)


潮彦(ウシオヒコ)
わだつみの一族の神。病み衰えたミコトさまのために、新鮮な海の気を届けにきてくれる。まっぱだかで、藍色のぼうぼうの髪で、性格は豪快で荒々しい。


鴻沼秀二(こうぬましゅうじ)
稲荷山開発を進める四井商事の社長の次男。会社は長男が継ぐのでお気楽な『ご隠居』をしている。盆栽と俳句が趣味。たまたま初音という言葉を連呼し、守山さんが狐に変化してしまうところに居合わせた結果、守山さんやマモルに協力するようになる。秘書の三浦さんといい仲。

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