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◎感想メモああ、この気持ちを、この高ぶりを、なんと言ったらいいんだろう。どう書いたらあなたに伝わるだろう。 そのくらい、伝えたいのにどういったらいいのか分からなくて困る。 なんかね、すごく、いいギャップがあるっていうか。 爽やかでちょい面白い、みたいなんを想像してたら裏切られるっていうか! もちろん爽やかで笑えることには間違いないんだけど、それだけじゃない!! 走るってことがどういうことなのか、強さとはなんなのか、信頼とは、仲間とか、勝ち負けとはなんなのか… とてもたくさんのことを問いかけ、またその問いに真摯に挑むことで、一つの答えを見せてくれた本。 この本を読んでみるまでは、長距離ってつらいし、地味だし、わたしは苦手だったんだけど(笑) 長距離という競技が、走るという当たり前の行為をとことん突き詰めるとどうなるのか、それを問い続けるものなのだということが分かった。 与えられた条件も、舞台も、全てが平等で、そこにしかない喜びや悲しみがあることが分かった。 ちょっと走り出したいかも、って、読み終わったら思うはず(笑) 素人同然の十人が箱根駅伝を目指すという突拍子もない設定、どこか懐かしいぼろぼろのアパートでの共同生活、 そこから生まれる衝突や酒盛り、ハードな練習に文句を垂らすアオタケの面々を自然と好きになり、 どこにでもいるようでいてそれぞれが強烈な個性を持つ十人を、自然と応援してしまっている。 人物や練習風景がよく練られていて、三浦さんがこの本にすごく力を入れてることが伝わってきた。 そういう魅力的な人たちが頑張るからこそ、予選会や、本番のみんなの走りが、苦しみやはじけるような喜びが、 なんというかすごくリアルに感じられて、ほんとにあったことのようで、 わたしもその気持ちを共有できたような気がして、というか勝手に一方的に共有しまくって、 ただ字を読んでいるだけのはずのわたしも苦しかったり、興奮したり、涙したりするんだろう。 悲しい話で泣くことはあるけど、わたしはいままでこういうスポーツものだとか、 悲しくない話で泣くことってほんとになくて、それでもこの本では、要所要所で泣きたくなった。 初めて読んだときは、片手で胸を押さえていなければ読み進めていられなかった。や、ほんとに!(笑) それはなんていうか、あんまりにもみんなが頑張っているから、 そして短い時間の間に、必死に考えて、手を差し伸べあって・・・ それが届いて、目に見えないもので結ばれていく姿が、とても尊いものだと思ったから。 箱根が始まるころには、誰もきっとこの十人の挑戦を、所詮夢物語だろうと馬鹿にしたりできないはず。 そして、一人一人が胸の中をそっと開かすそれぞれの走りの場面では、おかしいやら、胸が苦しいやらで、泣き笑いをしてしまうはず。 特にね、双子と、ユキ&ニコチャンの年長組が!泣かせるんだよ…おまえらそんなこと考えてたん…ってなるよ。 そしてクライマックスには、もう!ね!言葉にならない感動が、待っているから! 読んだら駅伝が好きになること間違いなし。走り出したくなること間違いなし。 誰が読んでも面白い本ってすごく珍しいことだけど、これは、わたしが知る限り、誰が読んでも面白い本です。 だって、頂点が見える。ああ、愛してる。 >>詳細情報、他の方の感想、お買い求めはここ!『風が強く吹いている』 |
◎人物紹介清瀬灰二(ハイジ)
「頂点を見せてあげるよ。いや、一緒に味わうんだ。楽しみにしてろ」
寛政大学4年。高校時代陸上に明け暮れるも、故障のためリタイア。しかし陸上への思いを捨てがたく、虎視眈々と竹青荘の住人が箱根駅伝に必要な人数に達するのを狙っていた。走を迎え遂に10名揃うと同時、念願の箱根駅伝を目指しはじめる。駅伝チームのリーダーにして実質的な監督であり、強い心で一同を引っ張ってゆく。 蔵原走(カケル)
「優勝できなきゃ、走れないのか?じゃあおまえら、いずれ死ぬからって生きるのやめんのかよ」
寛政大学1年。高校の陸上部では将来を嘱望されたアスリートだったが、暴力事件を起こして退部。陸上界とは距離を置き、ひたすら自身でトレーニングを積む日々だったが、ハイジと出会ったことによって箱根駅伝を目指すことになる。言葉より拳が先に出るタイプ。口下手で自分の思いをなかなか言葉に表せない。 坂口洋平(キング)
寛政大学4年 クイズ番組好きで雑学王だが、気が小さくアガリ症なので番組に出場しようとは思っていない。就職活動で苦闘中。アオタケの中でいまいち馴染みきれていないことを気にしている。
平田彰宏(ニコチャン)
寛政大学3年だが浪人2年、留年1年で、なんだかんだ25歳。高校時代は陸上部だったが、自分の肉体が陸上に不向きだと悟り、大学に入ってからは陸上を続けていなかった。かなりのヘビースモーカーだったが、箱根を目指すにあたって禁煙。手慰みに作っている針金人形が、女子たちの密かなブームに。あだ名の由来はもちろんニコチンから。
岩倉雪彦(ユキ)
寛政大学4年。すでに司法試験合格を勝ち取った秀才で、大の音楽好き。理論派。苦労して自分を育ててくれた母のために弁護士を目指したが、母親が再婚してしまい、母の幸せを喜びながらももやもやしている。ニコチャンとよく喧嘩をしているが、お互いのことをよく理解している。
杉山高志(神童)
寛政大学3年。真面目でマイペース、紳士的な性格。ムサと仲が良い。ド田舎の山村の生まれで、毎日山道を歩いたため持久力と坂道には自信がある。「神童」の由来は、故郷で成績もスポーツも一番だったため。ただ東京ではごく普通のレベル。
城太郎(ジョータ)
寛政大学1年。ジョージの双子の兄。弟ともども高校ではサッカー部に所属。身体能力も成績も弟とほぼ同じだったが、陸上は弟の方が優れていることに途中で気づき、そろそろ別の道を行くべきだと思い始めている。
城次郎(ジョージ)
寛政大学1年。ジョータの双子の弟。兄ともども高校ではサッカー部に所属。無邪気で天真爛漫。兄と共に、ひたすらモテたいくせに女心は全く分からない鈍感な男。自立し始めた兄の心の成長にも、全く気づいていない。駅伝に挑戦する内、カケルの走りに憧れるように。
ムサ・カマラ
寛政大学2年。黒人。理工学部の国費留学生。母国では学校へは車通学だった。陸上経験はないが、真面目な性格で身体能力も高い。日本語は流暢に話すが、丁寧すぎて少し不自然。
柏崎茜(王子)
寛政大学2年。粘着質なほどの漫画オタク。部屋には床が抜けるかと心配するほど漫画がうず高く積まれている。あだ名の由来は王子様のような端正な容姿からだが、それは何の役にも立っていない。自分の性格や経験の上では最も駅伝に遠い存在で、身体能力はメンバー中最下位。
勝田葉菜子
八百屋の娘で、早いうちからアオタケの挑戦を応援してくれる、マネージャー的存在。まじめで明るく可愛くいい子だが、双子のことが”二人とも好き”という変わった女の子でもある。
田崎源一郎
寛政大学陸上部の名(迷)コーチ。アオタケの大家さんでもある。ハイジは源一郎のことを素晴らしいコーチだと言っているが、いつも囲碁会に行ってばかりでコーチらしいことは一つもしていない。ハイジの運転する車には決して乗ろうとしない。
9区・藤岡一真
名門・六道大学陸上部4年、ハイジとは同じ高校の陸上部で、ハイジの真の実力を知る男。ストイックな実力者で、走をさらなる高みに誘うキー・パーソンとなる。高校のときのあだ名は「修行僧」
8区・榊浩介
走と同じ高校陸上部の出身者で、東京体育大学1年。走や寛政大学チームを快く思わず、何かと突っかかってくる。発言がいちいち嫌味で、ハイジの逆鱗に触れたことも。
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清瀬の気配を感じたらしく、街灯の下で男がわずかに振り返った。夜に浮かびあがるその横顔を見て、清瀬は「ああ」と小さく声を漏らした。 きみだったのか。 喜びなのか恐れなのか、自分でもわからない感情が胸に渦巻く。なにかがはじまろうとしていることだけが、はっきりと予感できた。 (中略) 「走るの好きか?」 男は急に足を止めて立ちすくみ、困っているとも怒っているともつかぬ表情を清瀬に向けた。激しい情熱を秘めてどこまでも黒い目が、純粋な光を宿してまっすぐに問い返してくる。 あんたはどうなんだ。そんな質問に答えられるのか、と。 その瞬間、清瀬は悟った。もしもこの世に、幸福や美や善なるものがあるとしたら。俺にとってそれは、この男の形をしているのだ。 清瀬を撃った確信の光は、そのあともずっと、心の内を照らしつづけた。暗い嵐の海に投げかけられる灯台の明かりのように。一条の光は、絶えず清瀬の行く道を示しつづけた。 変わることなく、ずっと。(P15,16) 「なんにしろ、俺たちに悪いことが起きるんだとしたら、ハイジがちゃんと知らせてくれるさ。あいつは便所掃除をさぼるとネチネチ嫌味を言ってくるが、それ以外ではまあ、いいやつだからな」 そのとおりだ、とムサは思った。竹清荘の住人たちを陥れるようなことを、清瀬がするはずがない。 ムサは「いやな予感」はしなかった。先ほど会った清瀬が、とてもうれしそうだったからだ。ムサが去年、生まれてはじめて雪が積もるのを見たときと同じぐらいに。(P60) 「いいか、過去や評判が走るんじゃない。いまのきみ自身が走るんだ。惑わされるな。振り向くな。もっと強くなれ」 いてて、と言いながら、清瀬は膝をのばして立ちあがった。走とニラは、清瀬を見上げた。清瀬の頭上で、春の星座が貴い王冠のように輝いていた。 「強く……?」 と走は尋ねた。 「きみを信じる」(P169) 「この、ばかちんが!」 (中略) 「いいかげんに目を覚ませ!王子が、みんなが、精一杯努力していることをなぜきみは認めようとしない!彼らの真摯な走りを、なぜ否定する!きみよりタイムが遅いからか。きみの価値基準はスピードだけなのか。だったら走る意味はない。新幹線に乗れ!飛行機に乗れ!そのほうが速いぞ!」(P199,200) 「長距離選手に対する、一番の褒め言葉がなにかわかるか」 「速い、ですか?」 「いいや。『強い』だよ」 ああ、と思った。もしもハイジさんの言うとおり、走ることに対するこの気持ちが、恋に似ているのだとしたら。恋とはなんて、報われないものなんだろう。 一度魅惑されたら、どうしたって逃れることはできない。好悪も損得も超えて、ただ引き寄せられる。行き先もわからぬまま、真っ暗な闇に飲まれていく星々のように。 つらくても、苦しくても、なにも得るものがなくても、走りやめることだけはできないのだ。(P255より) 情報を伝えた葉菜子は、自分が泣きそうになっていることに気づいた。 走る姿がこんなにうつくしいなんて、知らなかった。これはなんて原始的で、孤独なスポーツなんだろう。だれも彼らを支えることはできない。まわりにどれだけ観客がいても、一緒に練習したチームメイトがいても、あのひとたちはいま、たった一人で、体の機能を全部使って走りつづける。(P306) 十一.二キロの折り返し地点を、走は流線型の最新マシンかと見まごうほど無駄なく曲がった。スピードを落とすことは罪悪だ。走るために、俺のすべてはあるのだから。 走は前方を行くイワンキを、すでに射程にとらえていた。 加速する走を目の当たりにし、清瀬は恍惚となった。 あの走りを見てくれ。走るために生まれた存在のうつくしさを。 悔しさも羨望も軽々と凌駕する姿。べつの生き物のようだ。重力に縛られ、酸素の供給に汲々とする俺との、なんというちがい。 清瀬は叫びだしたい気持ちを、なんとかこらえた。やっぱりきみしかいない。こんなふうに、走ることを体現してくれるのは。俺を駆り立て、新しい世界を見せてくれるのは、走、きみだけだ。(P312) 箱根に行きたいのなら、冷凍ミカンでも食べながらロマンスカーに乗ればいい。そうすれば楽だし速い。 でも、ちがうんだ。俺が、俺たちが行きたいのは、箱根じゃない。走ることによってだけたどりつける、どこかもっと遠く、深く、美しい場所。いますぐには無理でも、俺はいつか、その場所が見たい。それまでは走りつづける。この苦しい一キロを走りきって、少しでも近づいてみせる。(P469) 「ハイジさん」 走は目を開け、清瀬を見た。「俺の居場所も、行くべき道も、全部あんたが教えてくれた。ハイジさんが、俺に考えることを教えてくれたんです」 電車が減速しはじめた。横浜駅が近い。走は立って清瀬の腕を取り、座席から引っ張りあげた。 「俺がそれを感謝してるってことを、知っていてください」 走と清瀬は横浜駅に降り立ち、ひとでごった返す地下道を、東口に向かって歩いた。 「ねえ、ハイジさん」 大切な秘密を打ち明けるように、走はひそやかに言った。「俺たち明日、走りましょうね。いままでで最高、っつうぐらいに」 どんな思惑や真実が明らかになっても、築きあげた信頼と情熱がいまさら消え去ることはない。 どんな魔物が行く手に立ちはだかろうとも、もう決して逃げたりひるんだりしない。 夢が形になる日だから、あとは心のままに走るのだ。(P502,503) 一キロを二分四十。平地では、ユキには出せないタイムだ。こんなペースを平地で五キロも持続できるのは、ユキの知るかぎりでは、走ぐらいのものだ。 道端の杉の枝が、真っ白な雪を載せて重そうにしなっている。幹は黒く濡れ、山は一晩のうちに、単色のうつくしい世界に変わっていた。それらの風景は目の端に映ったとたんに、後方へ流れる。映画のフィルムよりも速く、なめらかに。 そうか、これはふだん、走が体感している世界だ。ユキは胸が詰まる思いがした。 走、おまえはずいぶん、さびしい場所にいるんだね。風の音がうるさいほどに耳もとで鳴り、あらゆる景色が一瞬で過ぎ去っていく。もう二度と走りやめたくないと思うほど心地いいけれど、たった一人で味わうしかない世界に。 走が、ときに行き過ぎと思えるほど走りに没頭する理由を、ユキははじめて理解できた気がした。こんな速度で走ることを許されたら、たしかに中毒のように耽溺してしまう。もっと速く、もっとうつくしい瞬間の世界を見てみたい、と。それはたぶん、永遠も似た一瞬の体感なのだ。だが、危うすぎる。生身の肉体で挑むにはあまりにも苛酷な、うつくしすぎる世界だ。 俺はいま、箱根の山道の力を借りて、そこへ至る門を遠くから眺めたにすぎない。ユキはそう考えた。そして、これ以上近づこうとは、やはり思えないんだ。 (中略) 走、あまり遠すぎるところへ行くな。おまえが目指しているのはたしかにうつくしい場所だけれど、さびしくて静かだ。生きた人間には、ふさわしくないほどに。 走の魂を地上に結びつけてくれるものがあるといい。ユキはそう思った。ひとの生活、ひとの喜びと苦しみのなかに。そこに足をつけてこそ、走はきっと、もっと強くなれるはずだから。(P529〜531) そうだ、このさびしさが長距離だ。ニコチャンは思う。星のない夜空の下を旅するような孤独と自由。限界まで上がった心拍数を、冷える間もなく発熱する汗に濡れた肌を、血流と連動する筋肉のうねりを、ニコチャン以外のだれも知ることができない。定められた道のりを走り抜け、定められた場所にたどりつくまで、だれに触れられることもなく、ニコチャンは一人、余人の理解が及ばぬ戦いをつづけなければならない。 (中略) でも、まあいいじゃねえか、とニコチャンは思う。選ばれなくても、走りを愛することはできる。抑えがたく愛しいと感じる心のありようは、走るという行為がはらむ孤独と自由に似て、ニコチャンの内に燦然と輝く。それを手に入れられたのだから、いつまでもそれは残るのだから、もういいのだ。いま自分にできるすべてを最後の走りにこめて、ずいぶん長くつづいた競技への物思いは、今日で終わる。(P560〜562) 俺はこんなに、だれかと濃密に過ごせたことはなかった。一緒に、心から笑ったり怒ったりしたことはなかった。たぶんこれからもないだろう。ずっとあとになって、俺はきっと、この一年を懐かしく切なく思い返す。 俺はなあ、ハイジ。これが夢であってほしいと思うんだ。 二度と覚めたくないほどいい夢だから、ずっとたゆたっていたいと思ってるんだよ。(P575〜576) 「一年間、きみの走る姿を見て、きみと過ごしたいまは……」 清瀬の声は澄んで深い湖のように、走の心のなかで静かに潤う。「きみに対する思いを、『信じる』なんて言葉では言い表せない。信じる、信じないじゃない。ただ、きみなんだ。走、俺にとっての最高のランナーは、きみしかいない」 ああ。走の胸は歓喜に満ちた。このひとは俺に、かけがえのないものをくれた。きらきらと永遠に輝く、とても大切なものをいま、俺にくれたんだ。 「ハイジさん……」 ありがとうございました。あの春の夜、俺を追ってきてくれて。俺を真実の意味での走りへ導き、俺を信頼し、まるごとひっくるめた俺自身を認めてくれて。(P582〜583) 走りは、走を一人にするばかりではない。走りによって、だれかとつながることもできる。走るという行為は、一人でさびしく取り組むものだからこそ、本当の意味でだれかとつながり、結びつくだけの力を秘めている。 清瀬に会うまで、走は自分の持つ力に気づけていなかった。長距離とはどういう競技なのか、よくわからないまま走っていた。 走りとは力だ。スピードではなく、一人のままでだれかとつながれる強さだ。 (中略) ハイジさんは、信じるという言葉ではたりないと言った。俺もそう思う。どんな言葉も嘘になりそうなほど、ただ自然に湧きあがる全幅の信頼が胸のうちにある。自分以外のだれかを恃む尊さを、俺ははじめて知った。 走ることも、それに似ている。理由や動機は必要ない。ただ呼吸するのにも似た、俺が生きるために必要な行為だ。 走りはもう、走を傷つけない。走を排除したり、孤立させたりしない。走がすべてをかけて求めたものは、走を裏切らなかった。走るという行為は、走の思いに応えて強さを返した。呼べば振り向き、近づいてきてくれる大切な友人のように、走りは走のかたわらに寄り添う。征服し、ねじ伏せるべき敵としてではなく、いつまでもともにあり、走を支える力となって。(P598〜599) 清瀬は、中継所前の側道を見据えていた。九区の最後の百メートル。まっすぐな道を駆け来る走の姿を。 はじめて会った夜から、俺にはわかっていた。俺がずっと待っていたもの、ずっと欲していたものは、きみなんだと。 走は、清瀬の理想の走りを地上に実現してみせる。清瀬が求め、あがき、ついに届かずに終わろうとしているものを、いともたやすく視覚化してみせる。これほどまでにうつくしい生き物を、ほかに知らない。 夜空を切り裂く、流星のようだ。きみの走りは、冷たい銀色の流れだ。 ああ、輝いている。きみの走った軌跡が、白く発光するさまが見える。(P611) |